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日本短篇小说打卡第十二天: 俺が死んだら

​​――最愛なる妹の絵里香。

 お前にはずっと隠していたが、兄ちゃんは癌だ。もう助からない、そうお医者さんに言われている。

 突然の告白で驚いただろう。けど、泣かないでくれ。お前の涙を兄ちゃんは見たくない。そうだな、俺たちは二人きりで生きてきたよな。でも、これからお前は一人きりだ。 泣いてる暇なんかない。真っ直ぐに前を向いて進んでいってくれ。

 けどその前に、お前に一つ頼みがある。あの箱のことだ。黒いビニール袋に覆われてるデカい衣装ケース。あれは決して開けないでくれ。かといって、捨ててもいけない。お前が大事に保管してくれ。

 何が入ってるかなんて、お前は考えなくていい。兄ちゃんの言うとおりにするんだ。あんなものを開けても、お前が失った過去は戻らない。お前は、小学校時代の記憶がないんだろ? 気づいてたよ。兄ちゃんだからな。

 精神科で記憶を取り戻そうとしているらしいが、それもやめておけ。最後の忠告だ。それくらい、聞いてくれるだろ? 俺はお前を守りたいんだ。あのとき、結局俺はお前を守れなかったから――何の話かって? いや、口が滑っただけだ。

 親のことも思いだそうとするな。そうだ、母親は病気で死んだ。そうじゃなくて、父親のことだ。あいつはとんでもないクズ人間だった。俺やお前を気絶するまで殴って……。

 いまはどうしてるのかだって? そんなこと、知るはずないだろ。警察? 届けなんか出したってしょうがないだろ。それに、そんなことしたら――……そ、そう、そう言おうとしたんだ、戻ってこられたら困るのはこっちだ、ってな。

 それより、そうだ、これも言っておかないといけないな。そう、包丁のことだ。お前、兄ちゃんがいなくなったからってあんなものを使うんじゃないぞ。お前は包丁にトラウマがあるんだからな。

 覚えてないかもしれないが、小学校のときだ。お前は勝手に包丁を触って――血まみれになったことがあったんだ。あのときはどうしようかと思ったよ。家に帰って、血だまりで歯を食いしばってるお前を見たときには……。

 そんなトラウマが蘇ったら困るだろ? だから、絶対にあんなもの使うな。

 幸い、いまはレトルトで美味いものがたくさんあるんだし、ああいうのを使え。それに、お前が付き合ってる彼氏、あいつはコックだろ? お前に料理をさせないように、ちゃんと頼み込んでおいたから。

 だから、絵里香、幸せになれよ。

 くれぐれも、絶対に、あの箱には触れないように――な。​​​​

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